ずまログ

日常/非日常の印象を徒然なるままに綴ります

短編04:五月の海岸線

主人公は、故郷なるものとの葛藤を味わっているんだろうと思う。あるいは親とのそれを。現在、主人公は31歳で12年ぶりの帰郷なので19歳の頃にこの街を後にして以来、一度も帰郷していない。今回やむを得ない事情(この場合は友人の結婚式ということになっている)により帰らざるを得なくなった。でも帰ってきた筈の故郷は当然ながら元あった故郷では無い、そのことへの苛立ち、諦め…。

 

僕も著者の出身地のすぐそばで12歳まで過ごしていたから、海岸線への望郷の様なものはある程度理解できる。あの辺りは川伝いに海へ繋がっているし、海は身近な存在だった。小学生の頃、友人と自転車で海岸線まで行き、投げ釣りをしていたものだ。19歳と12歳では多少事情が違うかもしれない。しかし僕という人間の核心は12歳までにあの海岸線で出来上がったのだと、僕は思っている。そして、帰郷の際は多かれ少なかれ切ない気持ちになる。それは僕という存在が寄って立つ根拠を揺り動かし、場合によっては不安定にする。