ずまログ

日常/非日常の印象を徒然なるままに綴ります

長編02:1973年のピンボール

僕は本物のピンボール台には殆ど触れたことがない。ただし、任天堂ファミリーコンピュータで「ピンボール」というゲームがあり、高校生の頃に友人とやり込んでいたのを覚えている。もちろん、僕と鼠のようにとまではいわないが。友人は(仮にジェイとする)ジェイは、当時の最高スコアである、9999999点を叩き出していた筈である。当時の半導体の機能では、それが表示できる目一杯の数値だったのだ。放課後の貴重な時間を、受験生である僕たちは学生服に身を包みながら、ジェイの実家で概ねそのように過ごしていた。今もこの文章を書いていると、その時の空気や感覚がありありと浮かんでくる。古い音、古い光、そして古い夢。それを感じることができるということは、掛け値無しに素晴らしいことだ。著者も文章を書きながら、自身の一番の素敵な時間を追体験していたのだろうと想像するとき、とても羨ましく思うし分かり合える気もする。僕だってこれまでの過ぎ去った人生において、応分の物事を喪ってきたし、同時に美しい思い出も得てきたのだから。何を残し何を捨てるかについては、著者が言ったように殆ど選択の余地の無いことだったのだ。この小説を読むといつもそんなことを考える。

 

もう一つ付け加えるなら、この小説には後年の長編である『ノルウェイの森』、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』、『ダンスダンスダンス』に至る要素が全て詰め込まれている。